「しっかり説明したのに、こちらの意図が伝わっていない」
「良いアドバイスのはずが、相手が不機嫌になった」
仕事や家庭でそんなすれ違いが起きるたびに、「自分は伝え方が下手なんだ」と落ち込んでいませんか。
もっと語彙力があれば、もっと論理的に話せれば、もっと頭が良ければ——と自分を責めてしまう気持ち、痛いほどよく分かります。
けれど、管理職として長年「伝わらない」ことに苦しんできた私が、はっきりと断言します。
伝え方は、才能でもセンスでもありません。
あなたが磨くべきは「流暢な話し方」ではなく、「相手の受け取り方を見る目」です。
伝わらないのは、あなたの能力が低いからではなく、あなたが投げた言葉の軌道が、相手のタイプに合っていないだけなのです。
この記事では、私が合気道の稽古から学んだ「相手に合わせる」身体感覚をもとに、今日からできる3つの具体的な改善法を解説します。
才能がなくても、視点を少し変えるだけで、あなたの言葉は驚くほど相手の心に届くようになります。
伝え方が下手な人に共通する、たった1つのこと
まず、安心してください。
「伝え方が下手だ」と悩む人は、決して言葉のセンスがないわけでも、頭が悪いわけでもありません。
共通しているのは、ただ1つ。
「自分の視点」からしか、言葉を放っていないことです。
かつての私もそうでした。
「こう言えば伝わるはずだ」という自分の論理を、一方的に投げつけていたのです。
しかし、人はそれぞれで異なる「受け取り方のフィルター」を持っています。
どれだけ論理的に正しいボールであっても、相手が受け取れない高さと速さで投げ込んでしまえば、それは単なる暴投です。ときに、相手を深く傷つけることすらあります。
つまり「下手」の正体は、口下手だからではなく、相手が見えていないことにあります。
裏を返せば、相手の受け取り方の軌道さえ見えれば、あなたの伝え方は今日から変わり始めます。
▶ 関連: 相手の身になる、は想像ではない。デール・カーネギーと合気道に学ぶ「視点を入れ替える」稽古
合気道が教えてくれた「相手の軌道に合わせる」
この「相手の軌道を見る」という感覚を、私は合気道の稽古で実感しています。
たとえば、自分の片腕を相手に両手でがっちりと掴まれる「諸手取り(もろてどり)呼吸投げ」という稽古があります。
掴まれた腕を、自分の筋力でなんとか動かそうとしても、相手はびくともしません。
無理に力を出せば、ぶつかった分だけ強い抵抗が返ってきます。
ところが——自分自身の力みをふっと抜き、相手の気の流れ(軌道)に自分を合わせると、相手が崩れるのです。
言葉によるコミュニケーションも、これと同じです。
自分の論理を一方的にぶつければ、相手は身構え、心にまで言葉が届きません。
そうではなく、「この人はどんな言葉なら安心するのか」「どんな順番で聞きたいのか」を観察し、その軌道に自分の言葉をそっと乗せる。
軌道が合った瞬間、言葉は無理なく、自然に相手の中へと入っていきます。
▶ 関連: 正論は、人を動かさない。松下幸之助と合気道に学ぶ「合わせる」稽古
今日からできる、伝え方を改善する3つの稽古
では具体的にどうすればいいのか。
職場で今日から試せる、3つの小さな改善法(稽古)を紹介します。
① 「結論から」か「背景から」か、相手を観察する
ビジネスでは「結論から話せ」とよく言われますが、これは万人向けの正解というわけではありません。
結果を急ぐタイプには結論から話すのが正解ですが、リスクを慎重に考えるタイプには「なぜそれをやるのか」という背景と手順から話さないと、不安で動けなくなってしまいます。
同じ報告でも、上司Aと上司Bで順番を変えるだけで、反応は劇的に変わります。
まずは相手がどちらを好むか、観察してみてください。
② 「自分が言われて嬉しい言葉」を、一度疑う
私たちは無意識に「自分が言われて嬉しい言葉は、相手も嬉しいはずだ」と思っています。
しかし、大きな夢やビジョンを語られて燃える人もいれば、具体的なデータや事実を示されて初めて納得する人もいます。
自分の価値観の物差しを、いったん脇に置いてみる稽古です。
③ 伝わらない時、相手ではなく「軌道」を疑う
真意が伝わらなかった時、「相手の理解力がない」「自分は話し方が下手だ」と人を責めるのをやめましょう。
「あ、今の力の向きが、相手の軌道と違っただけだな」と客観的な事実だけを受け止め、次は気の合わせ方を変えてみる(=言葉を投げる順番や、使う単語を変えてみる)。
そして、自分も相手も責めない——これが一番、人間関係において心を軽くする秘訣でもあります。
もっと確実に「相手のタイプ別の伝え方」を知るには
ここまでは、私が合気道の稽古を通して掴んできた”感覚”のお話です。
ただ、自分と違うタイプの人の受け取り方を、感覚だけで見抜くのは決して簡単ではありません。
もしあなたが、「相手のタイプを、感覚ではなく、客観的・体系的に知りたい」と本気で思うなら、性格統計学というメソッドがあります。
これは文部科学省の調査研究事業(平成28年度)にも採択された、のべ12万人のデータに基づく統計学です。
人の「受け取り方の違い(価値観)」を明確なタイプとして学ぶことができます。
自分の感覚頼りから抜け出し、伝え方を確実な”技術”に変えたい方は、あわせて読んでみてください。
▶ 伝え方が下手・難しいと悩む人へ。伝え方コミュニケーション検定の口コミを大手企業管理職が検証
よくある質問(FAQ)
Q. 伝え方が下手なのは、生まれつきの性格(センス)ですか?
A. いいえ。性格やセンスではなく、「相手の受け取り方を見る習慣」があるかないかの差に過ぎません。
習慣と技術は、今日から変えられます。
Q. 極度の口下手ですが、それでも改善できますか?
A. できます。むしろ、流暢にたくさん話すことよりも、相手をよく観察して言葉の”軌道”を変えることの方が、伝わり方を大きく左右します。
話し上手である必要は全くありません。
まとめ:伝え方は、才能ではなく「技術」
繰り返しますが、伝え方は生まれ持った才能やセンスではありません。
相手の視点に立ち、相手の軌道に合わせて言葉を届ける「技術」です。
技術である以上、正しい理合いを知って実社会で稽古を重ねれば、誰でも確実に上達していきます。
「自分は伝え方が下手だ」と自分を責める力みを、まずは手放してください。
そして、目の前の相手をよく観察することから始めてみましょう。
あなたの言葉が、本当に届けたい人の心に、静かに届くようになることを願っています。

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