「何度話をしても、相手が行動しない」
仕事を進める時、後輩に動いてほしい時、なんとか理解してもらおうと説明すればするほど、相手は何となく冷めていく——そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
私たちは人に動いてもらいたい時、無意識に犯してしまう間違いがあります。
それは、こちらの都合だけで、相手をコントロールしようとしていることです。
本当に人が動くのは、その逆をやったときなのです。
今日は、デール・カーネギーの世界的名著『人を動かす』と、合気道の「横面打ち呼吸投げ」の理合いから、相手の勢いに乗って人を動かす極意を紐解きます。
人の心を捉える近道は、「相手の関心事」にある
デール・カーネギー氏は著書『人を動かす』の中で、アメリカの元大統領セオドア・ルーズベルトのこんな習慣を紹介しています。
ルーズベルトは、誰か尋ねてくる人があると分かれば、その人の特に好きそうな問題について、前の晩に遅くまでかかって研究しておいたのである。
ルーズベルトも、他の指導者と同じように、人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすることだと知っていたのだ。
(デール・カーネギー『人を動かす』より)
私たちは、「自分が話したいこと」「自分が通したい正しさ」を相手に求めます。
でも、それでは誰も動こうとはしません。
ルーズベルトが知っていた極意はシンプルです。
相手をこちらの都合に合わせさせるのではなく、まずこちらが相手の関心に合わせにいくこと。
人の心をひらく扉の鍵は、いつも相手側にあるのです。
相手の「打ちたい気持ち」を止めない
この「相手の関心に乗る」ということを、私は合気道の「横面打ち(よこめんうち)呼吸投げ」の稽古で教わりました。
こちらのこめかみを狙って、相手が手刀で打ちかかってくる。
この鋭い打ち込みを、力で受け止めようとしたり、掴んで投げようとすれば、相手は一瞬でこちらの気配を察して動きを変えてしまいます。結果、技はかかりません。
では、どうするか。
相手の「打ちたい」という気持ちを、そのまま生かすのです。
打ちかかってくる動きに逆らわず、すっと沈み込みながら振り返り、打ってきた手を優しく抱え込んで導く。
すると相手は、思い切り打ち込んだつもりが——フッと目の前から人が消える。
行き場を失った自分のエネルギーのまま、つんのめるように前回り受け身をしながら転がっていくしかなくなります。
「思い切り攻撃したのに、手応えがない。気づけばいつの間にか投げられている」
相手の関心(気の向き)を生かし、こちらの気配は消して、流れに乗る。
これが合気道の理合いです。
強く打つ相手ほど、きれいに転がる
そしてここに、この技のいちばん面白い事実があります。
それは、「相手の打ち込みが強ければ強いほど、技が効く」ということです。
ためらいがちに打ってくる相手よりも、全力で踏み込んでくる相手のほうが、鮮やかに技が極まります。
相手の圧倒的な勢いを、そのまま利用するからです。
仕事における人間関係も、これと同じです。
関心が強い相手(こだわりの強い人)=厄介な敵、ではありません。
関心が強いということは、それだけエネルギー(勢い)を持っているということです。
頑固な人、こだわりの強い人ほど、そのこだわりに逆らわず、「あなたが大事にしているそのことを、私も一緒にやりましょう」と流れに乗る。
すると、正攻法の説明では動かなかった人が、驚くほど自分の推進力で進み始めます。
逆に、相手の関心を無視して「こちらの都合」で動かそうとした瞬間——横面打ちと同じで、相手は無意識で察し、警戒し、ピタリと行動が止まります。
無駄な摩擦は、こういった「こちら側の都合」が原因で生まれるものです。
今日の稽古
相手を「自分の都合」で動かそうとしていないか。
相手はどうしたいのか、知ろうと努力しているか。
無理に相手を説得したくなった時、自分にこう語りかける。
「相手の関心のありかを見抜け」と。
今日も私は、こちらの都合ではなく、相手の関心の軌道に乗る稽古を実践する。
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