「自分の思っていることが、うまく言葉にできない」
「もっと気の利いた言い方ができれば、スムーズに伝わるのに」
職場で部下を指導するとき、上司に報告するとき、「伝え方って、本当に難しい」とため息が出ることはないでしょうか。
書店に行けば「論理的に伝える技術」や「言語化を鍛える本」がズラリと並び、私たちは「伝わらないのは、必要なテクニックが身についていないからだ」と悩みながら、必死に答えを求めています。
しかし、管理職としてコミュニケーションに苦悩してきた私は、ある日順番が逆であることに気づきました。
「伝え方が難しい」と感じるのは、自分が「上手い言葉」や「ノウハウ」を探しているからでした。
必要なのは、特別な語彙力やテクニックではありません。
日常の普通の言葉に「気(意志)」を込めること。
そうすると、相手の心に伝わり、応えてくれる。
今日は、稲盛和夫氏の哲学と合気道の理合いから、「伝え方の力み」を手放し、普通の言葉で相手の心を動かす具体的な方法をお話しします。
なぜ「伝え方が難しい」と感じてしまうのか
理由はとてもシンプルです。
「上手く言おう」「失敗しないように伝えよう」と考えた瞬間、意識(ベクトル)が、目の前の相手ではなく「自分自身」に向いてしまうからです。
頭の中で気の利いたフレーズを探している間、私たちが見ているのは、相手への関心ではなく自分の都合です。
そうして湧き出た言葉は、相手には「本気で自分に向けられた言葉」として届きません。
つまり、コミュニケーションを難しくしている正体は、伝える中身の複雑さではなく——上手くやろうとする、こちら側のエゴという力みなのです。
稲盛和夫「誰もがやれる仕事を、ひと味違うものに」
京セラとKDDIを創業した稲盛和夫氏は、著書『アメーバ経営』の中で、真の実力についてこう説いています。
企業経営を安定させようと思うなら、たとえ技術的にさほど優れていなくとも、どこでもやれるような事業を優れた事業にすることが大切である。つまり、誰もがやれるような仕事をしていても、「あの会社はひと味違う」というような経営をすることが、その会社の真の実力なのである。
(稲盛和夫『アメーバ経営』より)
特別な技術(テクニック)がなくてもいい。
誰でもできる普通のものの”質”を高めた者が本物である。
これは、言葉においても同じです。
人の心を動かすのは、誰も思いつかないような名言ではありません。
「おはよう」
「ありがとう」
「この仕事をお願いしたい」
誰もが使う普通の言葉を、「あの人の言葉は、なぜか心に響く」に変えられるかどうか。
それこそが、伝える力の実力なのです。
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拙くても、気を込める
この「普通のことの質を上げる」という感覚を、私は合気道で身体を通して確かめています。
合気道の稽古では、必ずしも華麗な技が求められるわけではありません。
たとえ動きがまだ拙くても、そこにしっかりと「気」を込めること。
ただ漫然と手足を動かすのではなく、「なぜこの動きなのか」「相手のベクトルはどこへ向いているか」を感じながら、一つひとつの動作に誠実な意志を込めて稽古をする。
力で強引に引っ張るのではなく、すっと脱力して相手を崩す。
そうして動きの質を上げていくと、傍からは同じような基本の動作に見えても、内面はきらりと光り始めます。
そして——ここがコミュニケーションにおいて一番大切な真理です。
その「気(意志)」をいちばん敏感に感じ取るのは、技をかけられている相手なのです。
こちらが誠実に、意志を持って向き合っていると、相手もそれを肌で察し、自然と応えようとしてくれます。
すると相手の受け身も変わり、こちらの技もさらに深くなる。
質が上がるのは自分一人だけではなく、お互いに成長し合っているのです。
伝え方もそうです。
どれほど拙い言い回しでも、そこに「あなたにちゃんと届けたい」という意志(気)があれば、相手は言葉の体温を感じ取ります。
そして、相手も自ら応えようとしてくれる。
そうなった時、コミュニケーションはもはや「難しいもの」ではなく、「二人で質を高め合う共同作業」へと変わります。
今日からできる、普通の言葉に気を込める3つの稽古
では、具体的にどうすれば普通の言葉に気を込められるのか。
今日から試せる3つの稽古を紹介します。
① 話す前に、一呼吸置く
口を開く前に一拍おいて、「誰に、何のために言うのか」を確かめる。
忙しいとただ一方的に伝えがちになるところを、相手の存在をちゃんと意識します。
② 「ありがとう」に、理由を一つ足す
「あの資料、締切前に出してくれて助かった。ありがとう」——感謝の理由を一つ添えるのです。
特別な語彙力はいりません。
③ 本気で相手のためを思う
自分の欲求やエゴからではなく、「これは相手のためになる」と本気で思えるか自問する。
本来、小賢しいテクニックなど必要ないのです。
誠意を持って接すれば、相手も自然とそれを感じ取り、応えてくれるものなのです。
それでも届かないなら、相手の「受け取り方」が違うのかもしれない
ここまでは、私が合気道の稽古で掴んできた”感覚”の話です。
ただ、正直にお伝えします。
どれだけ誠実に気を込めても、あなたの言葉の軌道が、相手の「受け取り方のクセ(価値観)」と根本的にズレていれば、言葉は相手の心には届かないかもしれません。
もしあなたが、「相手の受け取り方の違いを、感覚ではなく客観的に知りたい」と本気で思うなら、それを体系的に学べる性格統計学というメソッドがあります。文部科学省の調査研究事業(平成28年度)にも採択された、のべ12万人の統計データに基づくものです。
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よくある質問(FAQ)
Q. 語彙力がないと、伝え方は上達しませんか?
A. いいえ。
語彙は多いに越したことはありませんが、相手が受け取るのは言葉のセンスではなく、その奥にある「意志」です。
飾らない普通の言葉のほうが、むしろまっすぐ相手に届きます。
Q. 「伝え方が難しい」と感じるのは、私だけでしょうか?
A. 多くの人がコミュニケーションに悩んでいます。
「相手を大切にしたい」「分かり合いたい」と願う気持ちを失わなければ、道は必ず開けます。
まとめ:上手い言葉は、いらない
伝え方が難しいのは、自分の能力が低いからではありません。
上手く言おうとする力みが、目の前の相手を見えなくしているだけです。
特別なテクニックを探すのをやめて、いつもの普通の言葉に、誠実な意志を込める。
すると相手がそれを感じ取り、応えてくれる。
そうやって二人でコミュニケーションの質を上げていく。
伝え方とは、本来そういう温かい人間関係の稽古そのものだと思います。
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