触れる前に勝負は決まっている。中村天風と合気道に学ぶ、不安を消し去る「積極」の稽古

相手に手首を掴まれる。
多くの人は、そうした「物理的な接触」があった瞬間から技が始まると考えています。

しかし、合気道においては、身体が触れ合う前からすでに「気の結び」は始まっています。物理的には一切触れていないにもかかわらず、お互いの気が合っている感覚を、確かな実感を伴って感じることができるのです。

たとえば、「片手取り呼吸投げ」という基本技があります。
相手が自分の手首を掴みに来る。その時、掴まれるのをただ受動的に待ち、掴まれてからようやく技を始めようとすると、動作が遅れ、身体は固まり、技の流れが止まります。
そうならないためには、相手が触れてくる前に、すでに自分からスッと気を出しておかなければなりません。掴まれる前から気を合わせ、相手を導くのです。

さらに、相手を投げた後も大切です。
投げた瞬間に「終わった」と気を抜いてしまうと、相手が起き上がって次に向かってきた時に対応が遅れます。投げた後も気を切らさず、相手と繋がり続ける。
そうすることで、相手が起き上がってきた時にはすでに気が合っているため、すばやく次の技をかけることができます。

稽古中、常に気力を充実させ、自分の内側から外へと気を出し続けること。
それは、気を出している側がすでに、相手と触れる前から「主導権を握っている」のです。

武道におけるこの身体感覚は、私たちの日常やビジネスにおける「心のあり方」と、極めて密接にリンクしています。

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心を明るく保つために「気力を充満させる」

私たちは仕事や人間関係において、しばしば消極的な感情に支配されてしまいます。
「あの苦手な顧客からクレームが来たらどうしよう」「上司に強く追及されるのではないか」と、まだ起きていない未来に対して不安を抱き、心が萎縮してしまう。
これは道場で気を引っ込めて身体をこわばらせている状態と同じです。相手のアクションを受動的に待っているからこそ、不安が生まれるのです。

中村天風氏は、著書『成功の実現』の中で、自分の心をコントロールし、人生を切り拓くための心のあり方について、このように語っています。

己れの心のなかにあるものは、己れの心を明るく、朗らかにするもののみ、という心がけが必要なんです。もちろんその場合に、十分に気力を充満せしめて、消極的な気持ちを追い払う努力をしなければいけません。
(中村天風『成功の実現』より)

天風哲学の根幹をなすのが、心を常に「積極」に保つという教えです。
ここで言う積極とは、単に「前向きに頑張る」というような表面的な意味ではありません。天風氏は、心を明るく朗らかにするためには「十分に気力を充満せしめて、消極的な気持ちを追い払う努力」が必要だと述べています。

不安や恐れという消極的な感情は、放っておけばあっという間に心の中へ入り込んできます。
それを防ぐためには、「ただ何事も起きないように願う」のではなく、自分自身の内側から溢れんばかりの気力を充満させる。そして「私にはマイナスの感情は一切ないんだ」というくらいの積極的な気持ちでいる努力が不可欠なのです。

常に気を出し、人生の主導権を握る

ビジネスの現場で「常に不安を抱えている人」と「いつも堂々として朗らかな人」の違いは、能力の差ではありません。この「気を出しているか、引っ込めているか」の違いです。

いつも何かに怯え、消極的になっている人は、他人の機嫌や周囲の状況といった「外からの力」を受動的に待ってしまっています。だからこそ、困難な出来事にぶつかると、まともにダメージを受けて心が折れてしまうのです。

一方で、心を常に「積極」に保っている人は違います。
気難しい相手との商談や、プレッシャーのかかる会議の場においても、相手の言葉や態度を受動的に待つことはしません。部屋に入る前から、自分自身の内側から明るく朗らかな気力を充実させ、その場の空気を自ら作っていくのです。

それはまさに、合気道の「片手取り呼吸投げ」で、相手に掴まれる前から気を出して相手を包み込んでいる状態と同じです。
自分から気を出しているからこそ、相手の攻撃的な態度や強いプレッシャーに対しても、心が居着くことなく、サラリと受け流し、調和の方向へと導くことができるのです。

積極の心は、稽古で養われる

心を明るく朗らかに保つことは、生まれつきの性格ではなく、努力で身につけることができます。気を引っ込めて他人の顔色を窺うのではなく、常に自分から気力を充満させ、周囲へと気を出し続ける。
その「積極の心」を維持し続けるのは、最初は非常にエネルギーのいることかもしれません。投げた後も気を切らさない「残心」を保ち続けるのは、初めは気が休まる暇がなく疲れるのと同じです。

しかし、意識して気を出し続ける努力を重ねていけば、やがてそれは無意識の習慣となり、どんなトラブルが起きても決して揺らぐことのない、力強い「自分軸」となっていきます。
不安を寄せ付けないための最大の防御は、自らの心を積極に保つことなのです。

今日の稽古

漠然とした不安に襲われそうな時、自分にこう語り掛ける。
「消極的な気持ちは一切ない!私は積極的な気を放っている」

不安は待つからやってくる。自ら気力を充満させ、外へ向かって気を出し続ければ、恐れが入り込む隙はなくなる。
今日も私は、どんな場面でも明るい気を出し、心を「積極」に保つ稽古を実践する。

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この記事を書いた人

こんにちは。
合気道のまさです。

「本を読むだけで人生は変わる!」をモットーに名著を紹介しています。

私自身、稲盛和夫さんや中村天風さんなどの本を「稽古」のように繰り返し読んだことで、その思想や哲学を、頭だけでなく無意識のレベルで身につけることができました。

このブログでは、名著のエッセンスを、合気道の身体感覚を交えながらわかりやすく解説しています。

私と一緒に、人生を切り拓く稽古を始めませんか。

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