強くなって自信を持ちたいと思って始めたはずの稽古が、いつの間にか「人を傷つけるための場」に変わっていることがあります。
もしものときに自分や家族の身を守るため。
あるいは、心身を鍛錬し、人間的に成長するため。
合気道を始める動機は様々ですが、稽古を始めた当初は誰もがそういった純粋で謙虚な心を持っています。
しかし、稽古を続け、技が身につき、ある程度の「強さ」を手に入れた時、思わぬ落とし穴が待っています。純粋だったはずの心に「自分の技を人にかけて、強さを見せつけたい」「相手をやっつけたい」というエゴが芽生え始めるのです。
自信を持つこと自体は、決して悪いことではありません。
しかし、力がついたことによって根底の「考え方」まで傲慢に変わってしまえば、自らを高めるための稽古は、他者を傷つける「凶器をつくる場」になってしまいます。
これは、武道の世界に限った話ではありません。
ビジネスや人生において、少しの成功や豊かさを手に入れた時、私たちの心にも同じ罠が忍び寄ってくるのです。
成功が「考え方」を変えてしまう
起業したての頃や、新しいプロジェクトを任されたばかりの頃。
私たちは必死になり、謙虚に周囲の声に耳を傾け、無駄な経費を削り、泥臭く仕事に向き合っています。
しかし、事業が軌道に乗り、少しの成功と経済的な余裕を手に入れた途端、その姿勢を保ち続けることは困難になります。
稲盛和夫氏は、著書『京セラフィロソフィ』の中で、成功者が陥る心の変化についてこのように警鐘を鳴らしています。
ちょっと成功すると、いつもホテルで豪勢な食事を取られる方がいますが、そういう人を見聞きする度に私は疑問に感じてしまいます。その人も会社をつくった当初は、おそらく倹約を旨として経営に当たっておられたのだと思いますが、成功し、それだけのぜいたくをしても大丈夫だという経済的な裏づけができてくると、ぜいたくが身についていく。人間というものは、そうやってだんだんと考え方が変わっていってしまうのです。
(稲盛和夫『京セラフィロソフィ』より)
稲盛氏が危惧しているのは、「豪華な食事をすること」そのものではなく、環境の変化によって、「だんだんと考え方が変わっていってしまうこと」の恐ろしさです。
お金や地位など、自分が他者よりも優位に立てる力を手に入れると、人間は「自分は特別だ」「これくらい許されるだろう」と錯覚し始めます。
最初はほんの小さな気の緩みかもしれません。
しかし、その小さな傲慢さが積み重なることで、かつて倹約や謙虚さを旨としていたはずの「考え方」が変質し、やがて築き上げた成功そのものを内側から崩壊させてしまうのです。
反省を繰り返し、自他共に高め合う
合気道の稽古において、腕力に任せて相手をねじ伏せようとする技は、一時的には通用するかもしれません。しかし、強引に技をかけられた相手には「反発」が生まれ、そこには「調和」は存在しません。
では、手に入れた力や成功を凶器に変えず、自分を正しく導くためにはどうすればよいか。それは、稽古すればするほど、結果が出れば出るほど、自らに厳しく「反省を繰り返す」ことです。
「今の技は、腕力で投げていなかったか」
「今日の仕事は、自分のことだけを考えた自己中心的なものではなかったか」
成功体験や強さに酔うのではなく、常に自分の内面を点検する。
合気道の稽古は、相手を倒すためではなく、自分の中にある驕りや慢心といった弱い心を制するためにあるのです。
自分一人で強くなるのではなく、相手の気を尊重し、お互いの力が反発し合うことなく、共に高い次元へと昇華させる。その「自他共に高めあう」というあり方こそが、合気道の和の精神であり、世の中を発展させていくための真理なのです。
反省と初心
私たちは、弱くて何もできなかった頃の「初心」をすぐに忘れてしまいます。
仕事で部下を持つ立場になった時、独立して少し稼げるようになった時、あるいは道場で後輩を指導する立場になった時。
そんな時こそ、立ち止まってみる。
今、自分が手にしている「力」は、誰かを支配し、見せつけるための凶器になっていないか。それとも、周囲を活かし、共に成長するために使えているか。
成功や強さというものは、時として人の心を傲慢にさせ、正しかった考え方を狂わせてしまいます。
その慢心に呑まれず、正しい道を歩み続けるためには、素直な心で「反省」を繰り返し、「謙虚な初心」を持ち続ける努力が必要なのです。
今日の稽古
仕事で成果が出た時、自分にこう語りかける。
「今日、傲慢ではなかったか。正しい考え方を持ち続けているか」
そして、うまくいった日こそ、寝る前に静かに一日を振り返る。
力を持つこと自体は素晴らしい。しかし、考え方がマイナスになれば、それは凶器に変わる。
今日も私は、常に反省し、自他共に高め合う謙虚な稽古を実践する。
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