合気道の初段を取ると、周囲に格好がつきます。
「合気道初段、黒帯です」と言えば、それなりに強そうに見える。
ところが実際に初段になってみると、ここからが入り口だ、という気持ちになりました。
いまでもそのときのことを思い出します。
黒帯を締めると、相手の受けが変わるからです。
しっかりかかっていない技には、もう倒れてくれません。
稲盛和夫氏は『成功への情熱』で、一番大きな障壁は、安逸を求める自分自身の心だと書いています。
肩書きを手にしたときこそ、その心が顔を出します。
初段を取れば、周囲に格好がつく

合気道を始めてしばらくは、初段がひとつの目標でした。
黒帯は分かりやすい。
合気道を知らない人にも、何年か続けてきたことが一目で伝わります。
会社の肩書きと似ています。
課長、部長という名前がつけば、中身を知らない人にも何かが伝わります。
ただ、肩書きが伝えるのは「ここまで来た」ということです。
「ここから何ができるか」までは伝えてくれません。
稲盛和夫氏が「一番大きな障壁」と呼んだもの
「落第しないですむ」だけの成績で満足するか、一番になるために常に敢然と立ち向かっていくのかは、単なる成績以上の問題なのです。それはその人の人間性をも示しているのです。
より高く自らを導いていこうとするならば、あえて何度も障壁に立ち向かっていかなければなりません。そして一番大きな障壁は、安逸を求める自分自身の心なのです。(稲盛和夫『成功への情熱』より)
「落第しないですむ」だけの成績とは、合格ラインのことです。
初段は、ある意味で合格ラインです。
審査に通れば、黒帯を締められます。
稲盛氏が問うているのは、そこで満足してしまうかどうかです。
そしてそれは成績の問題ではなく、人間性の問題だと言い切ります。
障壁は外にあるものだと思いがちです。
難しい課題、厳しい上司、足りない時間。
稲盛氏は、一番大きな障壁は内側にあると書いています。
安逸を求める自分自身の心です。
初段になって、入り口に立った気持ちになりました
振り返ると、初段までは合気道の動きに慣れる段階でした。
技の形を覚える段階です。
技の手順を覚え、足捌きを身体に入れる。
それだけで何年もかかります。
初段になって、ようやく別の問いが始まりました。
技が本当にかかるのか。
どうやったら気を合わせ、崩し、導けるのか。
形を覚えたあとに残るのは、こうした問いです。
答えは師範が教えてくれるものだけではありません。
自己との対話も含めて、少しずつ技を深めていくしかありません。
黒帯になると、受けが合わせてくれなくなる

初段になって変わったのは、自分の気持ちだけではありませんでした。
相手の受けが変わりました。
合気道の稽古では、技をかける側と受ける側が交代します。
初心者のうちは、受けが技に合わせて倒れてくれます。
形を覚える段階では、それが必要です。
最初から本気で抵抗されたら、手順すら身につきません。
黒帯を締めると、それがなくなってきます。
しっかりかかっていない技には、受けてくれない。
崩れていなければ、相手は立ったままです。
意地悪をされているわけではありません。
受けの側から伝えてくれているのです。
もっと高度に技を磨くように、と。
倒れてくれないというのは、そのまま「まだかかっていない」という返事です。
言葉ではなく、身体で返ってきます。
肩書きがつくと、周りは甘くしてくれなくなる。
道場の外でも、同じことが起きているのかもしれません。
肩書きに安心する心が、一番大きな障壁です
初段になったからといって、安逸になってはいけない。
楽に流れてはいけない。
肩書きに自惚れると、稽古は形をなぞるだけのものに戻ります。
受けが倒れてくれなくても、今日は相手が悪かった、と言えてしまいます。
稲盛氏が「一番大きな障壁」と呼んだのは、この心のことだと思います。
外からは見えません。
黒帯を締めていれば、周りからは十分に強そうに見えるからです。
だからこそ、肩書きを手にしたときほど、自分に問う必要があります。
技は本当にかかっているか、と。
ここからさらに技を高めていく。
自分を高めていく。
そうやって人生を深めていく。
初段は、そのための入り口でした。
今日の稽古

黒帯を締めたことに、自惚れていないか。
受けが倒れてくれないのを、相手のせいにしていないか。
肩書きに安心しそうになったとき、自分にこう問いかける。
「その技は、本当にかかっているか」と。
今日も私は、入り口に立った気持ちで、技を深める稽古を続ける。
■ こちらの記事もあわせて読まれています
【誰にもバレない手抜き】
受けが合わせてくれるうちは、形だけの技でも見分けがつきません。同じ引用を別の切り口で。
▶︎ 手抜きは、誰にもバレない。稲盛和夫と合気道に学ぶ「安逸を求める心」に克つ稽古
【受けの側から見ると】
受けは、相手が技をかけやすいように考えています。
▶︎ 受けがうまくなると、技をかけるほうも上がる。松下幸之助『続・道をひらく』
【何年やっても】
三段になっても、基本技は難しいままです。
▶︎ カーネギー「とにかくスピーチをすること」。何年やっても、基本技は難しいままです
■ この記事を書くにあたって読み返した本

コメント