「この課題は、自分で考えて答えを出さないといけない」
「人にすぐ正解を教えてもらうと、なんかズルしている気分になる」
真面目で責任感が強い人ほど、「自力で解決すること」に囚われがちです。
他人のやり方を真似たり、教えを乞うたりするのを「手抜き」だと感じ、一人でゼロから悩み、膨大な時間を使ってしまうのです。
しかし、すべてを自力でやってゴールに辿り着こうとするのは、極めて遠回りであり、ときに目的を見失った苦行になっていないでしょうか。
今回は、中村天風氏が説く「他人の悟りを受け入れる真理」と、合気道の「師範の感覚をそのまま借りてしまう理合い」についてお話しします。
自力で悟っても、人から受け取っても、結果は同じ
中村天風氏は、真理(悟り)に到達するプロセスについて、著書『運命を拓く』の中でこのように語っています。
悟りというのは、自分の心が真理を感じたときの心の状態をいうのである。したがって、自分の努力で自分の心で感じるのも、人の悟りを耳から聞いて自分の心に受け入れるのも、受け入れ方に相違があるだけである。受け取ってしまえばその結果は同じである。真理を受け入れるときの心の態度が、悟りを開く上に密接な関係があるからこそ、安定打坐(あんじょうだざ)で心をきれいにさせているのである。
(中村天風『運命を拓く』より)
私たちはつい、「必死の努力をして、自力で到達した答え」が尊いと考えます。
しかし天風氏は、自力で感じ取るのも、他人の悟りを聞いて受け入れるのも、「受け取ってしまえば結果は同じ」だと言い切ります。
大事なのは、そこに至るまでの苦行の量を誇ることではありません。
「真理を素直に受け入れる、綺麗な心」があるかどうかです。
先人が膨大な時間をかけて辿り着いた答えがあるのなら、意地を張らず、まっさらな心で受け取ればいい。
自力にこだわることは、大きな遠回りになるのです。
気は、自力で悟ろうとすると何十年もかかる
この「素直に受け入れる」ことの威力を、私は合気道の稽古で皮膚感覚として感じています。
合気道には「気を合わせる」という重要な理合いがあります。
相手と接した時、肌の接触面の力で争うのではなく、その内側に通う「気」の動きを感じて合わせる。
うまくいくと、相手と一体になったような感覚が生まれ、力を使わずに相手を崩すことができます。
ただ、この理合いが最初はまるで理解できません。
さらにその「気とは何か」「合わせるとは何か」を、自分一人の頭でゼロから悟ろうとすれば、それこそ何十年もかかることでしょう。
師範の感覚を、そのまま真似る
だからこそ、すでにそれを体現している師範に、実際に技をかけてもらうのです。
ここで、初めて受けた者は圧倒的な衝撃を受けることでしょう。
師範の手首を持った瞬間、普通なら「ここで引っ張られる」「ここで押される」という物理的な予測が立ちます。
しかし、師範に触れた瞬間、表面の皮膚には何の摩擦も抵抗もないのに、自分の身体の「内側(中心)」だけがスッと崩され、気がつけば抵抗する間もなく転がされているのです。
「あ、これが力ではなく、内側で気が合ったということか」
理屈ではなく、崩された自分の身体が、その真理を体得した瞬間です。
その感覚を、「そういうものか」と素直に受け入れる。
そして、自分でもその感覚の通りにやってみる。
自分一人で苦行して道を悟る必要はありません。
師範がすでに掴んでいる感覚を、そのまま真似てしまえばいいのです。
素直に受け取れば、自力で何十年も悩むのと同じ結果が、はるかに早く手に入ります。
これは手抜きではありません。
天風氏の言う通り、素直に受け取ってしまえば結果は同じなのです。
自力へのこだわりは、謙虚さの顔をした「傲慢」
ビジネスの現場でも同じです。
新しいプロジェクトを任された時。
未経験のトラブルに対処する時。
「自分でなんとかしなければ」と、一人で閉じこもって、苦しんでいないでしょうか。
それは合気道で言えば、先人がすでに掴んでいる理合いを借りずに、独力で気を悟ろうとしている状態です。
気高く見えて、実は何十年分もの遠回りをしている。
仕事の目的は、自力で苦行することではなく、成果を出して周囲に貢献することのはずです。
ならば、すでに答えを持つ先人に素直に教えを乞い、その本質を自分の中に受け取ってしまう方が、はるかに速く、確実に前に進めます。
自力へのこだわりは、時に謙虚さの顔をした「傲慢」に陥ります。
本当の素直さとは、他者の悟りを、まっさらな心で受け取れることなのです。
今日の稽古
「自分でゼロからやらなければ」とのこだわりが、かえって歩みを遅らせていないか。
表面的なことに惑わされ、先人の教えの「本質」を見逃していないか。
一人で抱え込みそうになった時、自分にこう語りかける。
「人の知恵や経験を素直に借りよう」と。
苦行という自己満足を手放し、他者の教えを素直に受け取る。
今日も私は、すべてを自力でやろうとする傲慢さを捨て、「受け入れる」稽古を実践する。
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