「商談で一生懸命アピールしたのに、相手の心に響かなかった」
「自分の意見はしっかり伝えたはずなのに、なぜか相手との距離ができてしまう」
相手に良く思われたい、認められたい。
そう思うほど、私たちはつい自分のことを話したくなります。
しかし、自分を前に出せば出すほど、相手の心が離れていく。
そんな経験はないでしょうか。
自分が主導権を握ろうとするのをやめ、あえて一歩後ろに退く。
結果的にその方が、相手との関係を調和させ、自分の意図も通りやすくなります。
今回は、デール・カーネギー氏が説く「聞き上手が人を動かすという真理」と、合気道で体感する「技を修めたければ、まず受けを極めるという理合い」についてお話しします。
話し上手になりたければ、聞き上手になれ
デール・カーネギー氏は、人に好かれ、その心を動かすためのアプローチについて、著書『人を動かす』の中でこう語っています。
話し上手になりたければ、聞き上手になることだ。興味を持たせるためには、まず、こちらが興味を持たねばならない。相手が喜んで答えられるような質問をすることだ。相手自身のことや、得意にしていることを話させるように仕向けるのだ。
(デール・カーネギー『人を動かす』より)
自分が話すのではなく、相手に話させる。
自分に興味を持たせようとするのではなく、まず自分が相手に興味を持つ。
一見すると、自分の目的を果たすためには遠回りのように思えます。
しかしカーネギー氏は、この「自分を後ろに引く」姿勢が、結果的に相手の心を開かせ、自分への信頼を生む道だと説きます。
人は、自分の話を聞いてくれる人を信頼します。
自分を主張し続ける人ではなく、自分に関心を寄せてくれる人に、自ら心を開くのです。
技を上達させたければ、まず受けに回る
この「自分を後ろに引くことで、かえって本質が見えてくる」ことを、合気道は稽古の構造で教えてくれます。
合気道は、技をかける「取り」と、技を受ける「受け」を交互に繰り返します。
実は、技をかけている時は、自分の動きのどこが良くてどこが悪いのか、自分自身ではなかなか分かりません。
しかし、相手の技を受ける側に回ると、景色が変わります。
相手の身体の軸がどこでブレたか。
どの瞬間に技が効いて、どこで自分の身体が崩されたのか。
その技の特徴や急所が、技を受ける側の身体を通して、解像度高く理解できるようになります。
技を極めたければ、まずはしっかりと「受け」を取らなければなりません。
相手の技を全身で正確に受け止める経験の中に、技の本質を掴む鍵があるのです。
先に流れを調えれば、相手も応えてくれる
さらに、合気道の稽古における「受け」には、もう一つの重要な真理があります。
ただ相手に投げられるのを待つのではなく、相手が技をかけやすいように、こちらの気の流れを相手の動きへと能動的に調和させていく。相手がより稽古をやりやすくなるよう、こちらから先に合わせにいくのです。
すると、攻守が交代して自分が技をかける側になった時、変化が起こります。
こちらが先に相手を立て、気持ちよく技をかけさせてあげたからこそ、今度は相手もそれに応えてくれるようになります。こちらの技を正面から真剣に受け、より良い稽古になるよう、こちらの気の流れにしっかりと合わせてくれるのです。
これは、カーネギー氏の言う「まずこちらが興味を持つ」という人間関係の循環と同じ構造です。
先に相手を立てる。
先に相手の動きを受け止める。
先に相手が動きやすい流れを作る。
その「先に与える」姿勢が、巡り巡って、自分の技を磨く最高の環境として返ってくるのです。
ビジネスも、先に「受け」に回る
ビジネスでも、この理合いは同じです。
自分の提案やメリットをまくし立てるのではなく、まず相手の話を深く聞く。
相手が何を望み、何に困っているのかに、心からの興味を寄せる。
自分が前に出たい気持ちを抑え、先に「受け」に回って相手が気持ちよく話せる流れを作る。
その姿勢が、相手の拒絶の防衛本能を解き、やがてこちらの提案にも耳を傾けてくれるようになります。
自分を主張して強引に勝ち取るのではなく、相手を立てることで、結果的に自分も生きる。
それが、人を動かす本当の順番なのです。
今日の稽古
自分のことばかり話して、相手を置き去りにしていないか。
認められたい一心で、自分の売り込みばかりをしていないか。
自分を前に出したくなった時、自分にこう語りかける。
「相手に興味を持ち、聞き上手になろう」と。
自分が先に相手を受け止める。
今日も私は、相手に関心を寄せて「聞く」稽古を実践する。
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