「なぜ自分ばかりこんな目に遭うのだろうと、不満が募る」
「周囲の環境や待遇に対して、つい物足りなさやイライラを感じてしまう」
日々の忙しい仕事や生活の中で、私たちは思い通りにならない現実に不平不満を抱くことがあります。
朝、目が覚めること。
仕事があること。
帰る家があること。
日常のあらゆることを「当たり前」だと思い込んでいる時、私たちはその裏側にある恵みに気づけなくなります。
そして、少しでも不都合なことが起きると、すぐに心が波立ってしまう。
この「当たり前」という傲慢さこそが、私たちの心に不平不満を呼び寄せる最大の原因なのです。
私たちが不必要なイライラを手放し、どんな状況下でもブレない凛とした軸を保ち続けるためには、一体どのような心の稽古が必要なのでしょうか。
今回は、中村天風氏が説く「目が覚めるのは奇跡であるという真理」と、合気道の畳の上で体感する「傲慢さを排する『礼』の理合い」についてお話しします。
「当たり前」という傲慢が、不平不満を呼び寄せる
中村天風氏は、感謝の念を持つことの重要性について、著書『成功の実現』の中でこのように説いています。
私は、毎朝起きますと、もちろん起きる時も寝る時もそうですが、ニッコリ笑って「ありがとうございます」と必ず言う。天に向かって感謝します。昨夜夜中に死んじゃったからって喧嘩にならない。目がさめたんです。そしたらニッコリ笑います。「きょう一日この笑顔をくずすまい」と。そして同時に「ああ、生きていた。ありがとうございます」。夜寝る時も必ず私はお礼を申しあげて寝ます。
あなた方は生きているのが当たり前だ、目を覚ますのが当たり前だ、とこうなるんだ。当たり前じゃありませんよ。当たり前だ、当たり前だと思ってろ。そうすると、ある朝のことなりき、どうしても目が覚めざりき、という時がくるぜ。
人間はやっぱり、始終感謝の気持ちを頭の中にもって生きること。そうすると、不平や不満というものはなくなる。感謝を知らないで生きてる奴は罰当たりだ。
(中村天風『成功の実現』より)
私たちは生きていること、明日が来ることを当然のように錯覚しがちです。
しかし、天風氏は「当たり前なことなどない」と一喝します。
今この瞬間に息をしていること自体が、本来は有り難いことなのです。
「あって当然」という枠の中で世界を見ているからこそ、足りない部分ばかりが目に付き、不平不満を周囲に撒き散らしてしまう。
すべての土台である「生かされていること」にいつも感謝の気持ちを持つ。
この心の構えが腹に落ちた時、私たちは余計な不満で心を擦り減らすのをやめ、目の前の現実に向き合う強さを手に入れることができるのです。
朝の笑顔と10の書き出し。感謝を身体に染み込ませる
この天風氏の教えを単なる知識で終わらせず、自分の血肉にするために、私は毎日の生活の中で具体的な「型稽古」を実践しています。
まず、朝目が覚めた瞬間に、鏡に向かって無理にでも「ニッコリと笑顔を作る」こと。
そして、今「感謝できる事実」を10個、書き出すことです。
「今日も生きて目が覚めた」
「今日取り組むべき仕事がある」
「あたたかい食事がある」
「支えてくれる家族が目の前にいる」
どんなに小さなことでも構いません。
頭の中で曖昧に考えるのではなく、実際に文字として紙に書き出し、視覚を通じて脳にフィードバックさせる。
こうして書き出す稽古を続けていると、「当たり前」に埋もれていた日常の解像度が劇的に上がっていきます。
合気道の「礼」が、傲慢を排し、心を整える
この感謝を身体に染み込ませる感覚は、合気道の道場における「礼」の所作と一致します。
合気道の稽古ができる環境は、決して当たり前のものではありません。
稽古を重ねられる道場があり、指導してくださる師範がいる。
そして何より、共に技を磨き合ってくれる「稽古相手」が目の前にいる。
お互いの安全を預け合い、信頼関係がなければ一歩も前に進めない武道だからこそ、そこに傲慢さが入る余地があってはなりません。
だからこそ、私たちは稽古の前後、正面に対して、そしてお互いに対して深く「礼」を交わします。
この礼は、単なる形式的なセレモニーではありません。
「自分の力だけでここに立っているのではない」という自己中心的な思い込みを削ぎ落とし、相手への純粋な敬意と感謝を表現する、極めて実戦的な心の調律です。
お互いが感謝の念で結ばれたとき、道場には神聖な調和の空間が生まれてくるのです。
今日の稽古
周囲への物足りなさや不平不満を感じていないか。
今の環境があることを「当たり前」だと錯覚する傲慢に陥っていないか。
不満を感じそうになった時、自分にこう語りかける。
「すべては有り難い奇跡である。目の前の事実に感謝しよう」と。
「足りないもの」を求める心を手放し、今ある恵みにしっかりと根を張る。
今日も私は、朝の笑顔から始め、すべてに深く礼を尽くす「感謝」の稽古を実践する。
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