言われた通りにやれば、仕事は回ります。
前からこうしている。困ることは、ほとんどありません。
ただ、そのまま何年も続けていると、部下に「なぜこのやり方なんですか」と聞かれて、答えに詰まることがあります。変えなければならなくなったときも、何を残して何を変えていいのかが分かりません。やり方が、まだ自分のものになっていないからです。
松下幸之助氏は『道をひらく』の「なぜ」という一節で、日に新たであるためには、いつも”なぜ”と問わねばならぬ、と書いています。
「なぜ」と問い、答えを自分で考え、人にも教えを求め、もう一度やって確かめる。
理屈と体験が揃ったとき、はじめてやり方が自分のものになります。
仕事なら、分かった根拠を次の人に残すところまでやります。
合気道の両手取り天地投げという技で私がそれを確かめた話と、仕事で同じことをするメリットをお伝えします。
松下幸之助「日に新たであるためには、いつも”なぜ”と問わねばならぬ」

日に新たであるためには、いつも”なぜ”と問わねばならぬ。そしてその答えを、自分でも考え、また他にも教えを求める。
(松下幸之助『道をひらく』より)
長く続けているものほど、「なぜ」は出てこなくなります。
慣れた手順は、考えなくても手が動くからです。そして、それが楽だからです。
両手を同時に動かすと、相手は崩れない
両手取り天地投げは、両手を同時に動かすと、相手が崩れません。
片方の手で先に崩してから、もう一方の手を動かします。
相手に両手を持たれたとき、出ている足のほうの手を先に下に崩し、そのあと反対の手を螺旋状に切り上げ、一歩踏み込んで相手を倒します。先に上に崩すやり方もあります。
稽古では、そう教わります。
言われた通りにやれば、技の形にはなります。
それでも、問います。
なぜ同時だと相手は崩れないのか、と。
受けと取りを代わると、相手の動きがわかる

実際に自分でやってみると、両手を同時に動かしたときは、確かに崩れません。
受けと取りを代わってもらい、今度は自分が相手の両手を掴む側に回ります。すると、相手の動きがわかります。同時に動かされても、こちらは崩れません。
そこから自分で考えます。
上と下に同時に動くので、ちょうど相手はバランスが取りやすくなるのではないか。そういうことを、一つずつ考えていきます。
師範や高段者にも、教えを求めます。なぜですか、と。
いろいろと理屈を教えてもらえます。同時だと、相手がこちらの動きを読みやすい。これもその一つです。
掴む側に回ったとき、相手の動きがわかったのは、このことでした。
そして、時間差をつけてやってみる。
今度は、崩れます。
理屈と体験が合わさって、ようやく自分の身体に落とし込まれていきます。
頭で分かっただけでも、たまたま崩れただけでも、次の稽古でまた迷います。
「なぜ」の答えは、根拠として次の人に残す

仕事で「なぜ」と問うたら、分かった根拠を書き残すところまでやります。
そうしておくと、後の人がその仕事を続けるか、やめるかを判断できます。
前任者から引き継いだ手順や、毎月つくっている資料。
引き継ぎのときによく「なぜこれをやっているのですか」と聞くのですが、その担当者も前から同じことをやっているから、というだけのことが意外と多いものです。
根拠が残っていないと、後の人が困ります。
変えていいのかどうかが分からないまま、同じことを続けるしかなくなります。
問い直すときは、天地投げと同じ順番です。自分でやってみて、「こういう理由ではないか」と自分の答えを一つ持つ。資料なら受け取る側に回ってみると、見えてくることがあります。
その上で、前々任者まで遡って、あるいは長く関連した仕事をしている人に、自分の答えを持って聞く。
分かった根拠は、手順と一緒に書き残します。
根拠まで残しておけば、後からその仕事の重要性を理解する助けになります。
時間が経って背景が変わっていれば、やめたり変えたりすることもできます。
部下に「なぜですか」と聞かれたときも、自分の言葉で答えられます。
何年同じ仕事をしていても、「なぜ」と問えば、明日の仕事は今日と同じではなくなります。
今日の稽古

ルーチンで仕事をしているとき、こう自分に問いかける。
「なぜ、この業務をやっているのか」と。
今日も私は、なぜと問いながらの稽古を続ける。
■ こちらの記事もあわせて読まれています
【頭で分かることと、できること】
講義を三年聞いても、水に入らなければ泳げない。理屈と体験の違いを、別の一節から考えました。
▶︎ わかったつもりを戒める。松下幸之助と合気道に学ぶ「実践と体験」の稽古
【人に教えを求める】
わからなければ、人に聞く。己のカラにとじこもらないための一節です。
▶︎ 素直に教えを乞う。松下幸之助と合気道に学ぶ「謙虚」の稽古
【いまの会社の外側を知る】
いまの会社の物差ししかないと、自分が何をできるのかも見えません。外の基準を一度知る、という話です。
▶︎ もう働きたくないと思う50代。辞めなくていい。一度、外の基準を知るだけでいい
■ この記事を書くにあたって読み返した本

コメント