経験が邪魔をする。松下幸之助と合気道に学ぶ「素直さ」の稽古

「自分のやり方でずっと成果を出してきた。これでいけば間違いない」
「現場から意見は上がるが、自分の経験からすれば的外れに思える」

経験を積み、ベテランの領域に入って成果を出せるようになるほど、私たちは「自分の常識」という殻の中に入り込んでしまいがちです。自分では人の話を聞いているつもりでも、心のどこかで「自分の方が分かっている」というプライドが邪魔をする。

耳の痛い指摘や、自分と違うやり方を、無意識に弾いてしまう。
皮肉なことに、経験を積んだ人ほど、この「素直になれない」という罠に深くはまるのです。

目次

ベテランほど人の話を聞けないのはなぜか

数多くの事業を成功に導きながらも、決して自惚れることなく他者の声に耳を傾け続けた松下幸之助氏は、著書『続・道をひらく』の中でこのように語っています。

しかしやはり、他人の言はよく聴きたい。どんな人の言葉も、どんな人の考えも、それが真剣であればあるほど、身をのり出すほどの思いで、よく聴きたい。一人よりも二人に、二人よりも三人に、できるだけ多くの話を聴いて、そしてわが心を養い、わが知恵を誤りなくゆたかにしたい。
(松下幸之助『続・道をひらく』より)

なぜ、多くの人に聞く必要があるのか。
それは、自分一人の視点では、絶対に自分の死角に気づけないからです。

たいていの人は、自分の欠点を自分では見ることができません。
だからこそ、できるだけ多くの他者の目を借りて、自分一人では決して見えない死角を埋めていく。

その身を乗り出すような必死な姿勢の先に、生きた知恵が育っていくのです。

自分の「力み」は、相手の身体が教えてくれる

この「自分では自分の欠点が見えない」という事実を、私は合気道の稽古で、痛いほど思い知らされています。

合気道では、これまでの人生で培った「日常の体の使い方」が、ほとんど通用しません。

普段の筋力で相手を動かそうとしても、びくともしないのです。
自分では正しく力をかけているつもりなのに、技がかからない。

そんな時、技を受けている相手が教えてくれます。
「今、ここで力がぶつかっているよ」
「肩に力が入って、丹田の結びがなくなっているよ」と。

経験を積んでくると、これを素直に聞けなくなる時があります。
「いや、自分はこれまでこのやり方で技がかかっていた」「相手の受け方が悪いのではないか」と、自分の経験値を守ろうとしてしまいます。

しかし、ここが核心です。
技をかけられている相手の身体には、私の「力み」や「不自然さ」が、事実としてはっきりと伝わっています。
自分の主観的な「できているはずだ」という思い込みより、相手の身体に起きている「力がぶつかっている」という客観的事実の方が、100%正しいのです。

自分の欠点は、自分では見えない。
相手の身体が、それを正確に知っている。

だから、相手の声を、一切の言い訳をせずに聞く。
自分の動きを微修正して、もう一度やってみる。

その繰り返しで、過去の常識という殻を破っていくのです。

上手くいかない原因は、相手が知っている

ビジネスの現場でも、この理合いは重要です。

プロジェクトが進まない時、部下が思い通りに動かない時、私たちはつい「状況が悪い」「相手が分かっていない」と、原因を決め打ちしがちです。
しかし、上手くいかない原因を、実は自分がわかっていないことがあります。

それを知っているのは、現場で動いているメンバーであり、サービスを受けている顧客であることは少なくありません。

彼らが発する「ここがぶつかっています」という小さな声から逃げず、身を乗り出して聞いているか。
自分の経験というプライドを脇に置き、相手の言葉で自分を修正できるか。

合気道で相手が力みを教えてくれるように、ビジネスでも、自分の見えない死角を教えてくれるのは、いつも他者なのです。

今日の稽古

自分のやり方に固執し、「自分の方が分かっている」と他者の意見を退けていないか。
上手くいかない時、相手のせいにして、自分の死角から目を背けていないか。

耳の痛い意見に直面した時、自分にこう語りかける。
「欠点は自分には見えない。相手の声を素直に聞こう」と。

言い訳を飲み込み、相手の話に耳を傾ける。
今日も私は、人の話を聞く「素直さ」の稽古を実践する。

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この記事を書いた人

合気道のまさ|合気道三段

人生のどん底から私を救ったのは、名著を「稽古」のように読み返す習慣と、合気道でした。

このブログでは、名著の知恵を合気道の身体感覚で読み解き、しなやかに生きる「型」をお届けします。

かつての私のようなあなたを、心から応援しています。

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