何度言っても、部下が動かない。
言い方を変え、資料を見せて、順序を尽くしても、返ってくるのは「わかりました」だけで、次の日には元に戻っている。
デール・カーネギー氏は『人を動かす』の中で、アドラーの言葉を引いています。
「他人のことに関心を持たない人は、苦難の人生を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちのあいだから生まれる」
心理学の書はたくさんあるが、どれを読んでもこれほど意味深い言葉には、めったに出くわさないだろう。このアドラーの言葉は、何度でも繰り返し味わう値打ちがある。(デール・カーネギー『人を動かす』より)
読み返して気づいたことがあります。
「他人に対しても大きな迷惑をかける」だけではなく、その前に「苦難の人生を歩まねばならず」と書かれています。
他人のために関心を持て、という話だけではありません。
関心を持たないと自分が苦しむと言っています。
私は大手企業で管理職をしながら、合気道を15年以上続けてきました。道場でも、相手に関心を持たないまま動かそうとすると、まず自分が困ります。
先に書かれているのは、本人が苦しむこと
「苦難の人生を歩まねばならず」が、迷惑より前にある
この一節は、順番にも意味があると思います。
苦難の人生を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。
道徳の話であれば、迷惑のほうが先に来るはずです。人に迷惑をかけるからやめなさい、という形になる。
アドラーは逆に置いています。
関心を持たない人が、まず引き受けるのは自分の苦難です。
そのあとで、周りにも及ぶ。
そして「人間のあらゆる失敗はそういう人たちのあいだから生まれる」と続きます。
カーネギー氏も、この言葉を特別に扱っています。
心理学の書はたくさんあるが、これほど意味深い言葉にはめったに出くわさない。
何度でも繰り返し味わう値打ちがある。
自分の本の中で、ここまで書いている箇所は多くありません。
なぜそこまで言えるのか。
道場で考えると、腑に落ちるところがあります。
相手の丹田に合わせる

相手がどこに重心を置いているかを、分かろうとする
合気道では、相手の丹田に合わせます。
相手と気を合わせる、という言い方もします。
相手がいま行きたい方向はどちらか。
どこに重心を置いているか。
それを分かろうとするところから始まります。
それなしに、相手と合わせることはできません。
ここで言う「分かろうとする」は、優しさではありません。
技術的な前提です。相手の重心が読めていなければ、そもそも技の形にならない。
相手があって、自分がある。
順番として、相手が先です。
合いさえしないのだから、動くわけがない
こちらのわがままでは、相手は動かない
こちらの都合だけで相手を動かそうとすると、どうなるか。
相手と合いません。
そして、合いさえしないのだから、動くわけがありません。
力が強ければ何とかなる、という話でもありません。
ぶつかっている状態なので、力を入れるほど相手も固くなる。
押した分だけ、反発が返ってきます。
関心を持たない人が、なぜ苦難の人生を歩むのか。
相手と合わないからです。
合わなければ、相手は動かない。
動かないなら、全部を自分の力でやることになります。
そうやって一人で押し続けている状態、協力が得られずに孤独に陥っていく状態、それを苦難と呼ぶのだと思います。
だから、合気道は愛と調和の武道だと言われます。
合わないものは動かない。
だから、合わせて、導いていくことになります。
今日の稽古

相手に関心を持つのは、相手のためではない。
そう考えると、少し気が楽になる。
いい人になろうとしなくていい。
相手がどこに重心を置いているのかを、知ろうとするだけだ。
どこへ行きたいのか、いま何を抱えているのか。
分かれば、合わせられる。
合えば、動く。
強引に動かすのではなく、相手の関心を理解して導く。
遠回りに見えて、こちらがいちばん楽な道だと思う.。
何度言っても相手が動かないと感じたとき、こう自分に言い聞かせる。
「相手に合わせていないだけだ」と。
今日も私は、相手の丹田に合わせる稽古を実践する。
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