「あの人は、いつもここでミスをしている」
「なぜ、何度言っても直さないのか」
仕事をしていると、周りの人の至らない点ばかりが気になります。
相手を正そう、良くしようと思うあまり、こちらの言葉に批判やダメ出しの感情が混じる。
結果、相手の感情に触れてしまい、ますます動きたがらなくなる。
「欠点を指摘して正す」
——このやり方だけでは、人は心から動いてくれません。
今回は、デール・カーネギー氏の「人を扱う秘訣」と、合気道で辿り着いた「相手の動きたい方向へ導くプロセス」についてお話しします。
悪口を言わず、長所をほめる
カーネギー氏は、著書『人を動かす』の中で、人間関係で失敗ばかりしていたベンジャミン・フランクリンが、いかにして偉大な外交官になったのか、その成功の秘訣をこう短く述べています。
彼の成功の秘訣は「人の悪口は決して言わず、長所をほめること」だと、自ら言っている。
(デール・カーネギー『人を動かす』より)
私たちは問題が起きると、「誰が悪かったのか」「何がダメだったのか」と、相手の原因追求から始めてしまいます。
相手の欠点を強く指摘し、論理的に追い込むことを指導だと思いがちです。
しかし、人間は感情の生き物です。
どれだけ論理的に正しくても、自分の欠点ばかりを責められれば自己防衛本能が働き、無意識に反発します。
人を動かすのは、欠点を叩いて矯正することだけではありません。
相手の優れているところを見つけ、そこに光を当てるのです。
自分勝手に動かすと反発される
この「欠点を直すのではなく、相手の力を生かす」という理合いの真意を、私は合気道の上達プロセスそのものとして体感しています。
合気道を始めたばかりの初心者の頃は、とにかく「技がかからない」という壁にぶつかりました。
なぜか。
それは、相手の力の向き(事情)を感じる余裕がなく、覚えたての形の通りに、自分の都合だけで相手を動かそうとしていたからです。
「この形なら、絶対にこっちに倒れるはずだ」と、無理な力で相手を矯正しようとする。
すると相手の身体は強く反発し、文字通りビクともしなくなります。
もちろん、最初は基本の形を必死に覚える時期も大切であり、その積み重ねが合気道の身体と動きを作ってくれます。
しかし、自分勝手に動かそうとする段階では、人は決して動かないのです。
相手の「動きたい方向」が見える
そこから何年も修練を重ね、合気道の動きが身体に馴染んでくると、次第に相手の力(ベクトル)を感じる余裕が生まれてきます。
考えずとも、接触した肌から相手の状態を感じ取れるようになる。
さらに10年、15年と技が深まると、ついには「相手の心の動き」まで感じられるようになります。
接触した肌の奥、気を通して、相手が動く前の「気の動き」すら察知できる。
こうなると、もう自分の都合で無理に技をかけることはありません。
相手の重心を感じ、相手が「動きたい方向」「動きやすい方向」を見極め、そこに自分の気を合わせて導くだけです。
無理に倒そうと(直そうと)せず、相手の力の赴くままに導いてやる。
すると相手からすれば、自分の自然な流れで動いたはずが、気づけば技にかかっている、という不思議な感覚になります。
自分勝手な力で矯正するのではなく、相手の自然な流れを見極め、そこへ導くのです。
長所を生かす
ビジネスの人間関係も、本質は同じです。
「欠点を指摘して直させる」というのは、自分の都合だけで無理に相手を倒そうとしている状態です。
無理な批判を加えれば、相手は反発して動かなくなります。
カーネギー氏の言う「長所をほめる」とは、ただおだてることではありません。
相手が何を得意とし、どんな意欲(ベクトル)を持っているのかを感じ取り、その「動きたい方向」に合わせながら、あるべき姿へ導いていくことです。
欠点ばかりを叩いて、こちらの思い通りに相手を矯正しようとしない。
相手の本来の力の向き(長所)を生かす方向へ導いた時、人は初めて、自発的に動いてくれるのです。
今日の稽古
相手の欠点を追求して反発を生んでいないか。
自分の形を押し付け、無理に相手を動かそうとしていないか。
人が動かない壁にぶつかった時、自分にこう語りかける。
「相手の動きたい方向へ導こう」と。
欠点を正そうとせずに、相手の本来の力を生かす。
今日も私は、相手の力をも味方につける「導き」の稽古を実践する。
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