「この厄介な案件さえ終われば、心が休まるのに」
「あの人との関係さえ良くなれば、毎日が楽しくなるはず」
私たちはつい、目の前の問題がすべて片付いた先に、幸せがあると考えてしまいます。
しかし、問題がゼロになる日は、一生やってきません。
一つ片付けば、また次がやってくる。
それが人生です。
苦しみが消えるのを待っていたら、一度きりの人生は、苦しいまま終わってしまう。
そうではなく、「苦しい」という評価そのものを手放し、いま生きていることに目を向ける。
そのとき人は、状況が変わらなくても、笑って生きられるようになります。
苦しいかどうかは、心が決めた「評価」にすぎない
波乱万丈の人生の末に心身統一法を確立した哲人・中村天風氏は、著書『運命を拓く』の中で、こう説いています。
一生は、何百年生きたとしても、二度とは来ない。
そう思ったならば、せめて生きている間だけは、どんなことがあっても、ニコニコ笑って行こうではないか。つらいこととか、悲しいこととか、苦しいこととかいうのは、自分の心で決める評価なんだから。つらいことがあっても、
「ああ嬉しい!こうして生きていられる!」
と思ったら、ニコニコして暮らしていけるじゃないか。殺されるよりいいじゃないか。
(中村天風『運命を拓く』より)
天風氏によれば、出来事そのものに「良い」も「悪い」もありません。
そこに「つらい」「苦しい」というレッテルを貼っているのは、ほかならぬ自分の心です。
だとしたら、その評価を、自分で書き換えてしまえばいい。
「ああ、今日も生きていられる。それだけで嬉しいじゃないか」と。
痛い。きつい。それでも「嬉しい」
「そうは言っても、つらい渦中で笑えるわけがない」
そう思う人が多いでしょう。
しかしこの感覚を、私は合気道の道場で、身体を通して知っています。
私は「なぜ、合気道をやっているのですか?」とよく聞かれます。
護身のため、健康のため、強くなるため——理由を挙げようと思えばたくさん出てきます。
でも、いちばん根底にあるのは、合気道をやっていること自体が、ただ楽しいからです。
誤解のないように言えば、稽古は決して楽ではありません。
関節技を極められれば、一瞬で戦意を失うほど痛い。
受け身に失敗して、畳に打ちつけられることもある。
汗だくになり、息が上がり、身体は悲鳴を上げる。
客観的に見れば、間違いなく「苦しい」状態です。
それでも道場の私たちは、笑顔で稽古しています。
今日もこうして道場に立ち、みんなで汗を流し、身体を動かせる——生きていること、それ自体が嬉しいからです。
痛みもきつさも、いま生きていることの、鮮烈な証明にすぎません。
評価を手放し、生きていることを喜ぶ
日々の仕事や生活も、この道場と同じです。
思い通りにいかない仕事。
理不尽な人間関係。
体力の衰え。
心はすぐに「つらい」「苦しい」という評価を下します。
けれど、一度きりの人生です。
そのトラブルに悩み、右往左往できることすら、「いま、生きている」からこそ味わえること。
天風氏の言うとおり、「殺されるよりいいじゃないか」と腹をくくれば、たいていのことは、軽く感じるようになります。
——正直に打ち明けると、私自身、かつて自分の軸を見失い、心が折れて、笑うどころではなかった時期があります。
あの頃の私に「ニコニコ笑え」と言っても、決して届かなかったでしょう。
だからこれは、いま渦中で立ち上がれない人への精神論や説教ではありません。
ようやく少し呼吸ができるようになった人が、二度と自分を見失わないための——再び嵐が来ても折れない「心の芯」をつくる稽古です。
苦しみのない人生を、探す必要はありません。
幸せとは、問題がなくなった状態ではない。
問題の渦中でも、笑顔でいられる状態のことなのです。
今日の稽古
目の前の出来事に、自分で「苦しい」「つらい」という評価を下していないか。
問題が消えるのを待つばかりで、いま生きている喜びを見落としていないか。
心が塞ぎそうになった時、自分にこう語りかける。
「今日も生きている。それだけで嬉しい」と。
今日も私は、出来事への評価を手放し、ニコニコと笑う稽古を実践する。
💡 「もう、笑う気力すら残っていない」と感じている方へ
苦しみを笑い飛ばす心意気は、大切です。でも、もし今のあなたが「生きているだけで嬉しい」とは到底思えないほど、すり減っているのだとしたら——それは心の持ち方の問題ではなく、環境があなたの心を壊しにきているサインかもしれません。無理に笑う必要はありません。
再び自分軸を取り戻し、心から笑える場所を探すために、プロの伴走者とキャリアを棚卸しするのも一つの手です。
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