道場には時折、学生時代にスポーツで鍛えた、体格も運動神経もよい人が入門してくることがあります。比較的覚えも早く、力強くスピーディーに動くことができます。
しかしそんな彼らも、稽古が進むにつれ、ある壁にぶつかります。
自分の腕力やスピードが、小柄で年配の先生の前では全く通用せず、いとも簡単に転がされてしまうのです。
私自身も、稽古の中で
「もっと身体が柔らかければ、あのしなやかな動きができるのに」
「もっと運動神経が良ければ、技が綺麗に決まるのに」
と、自分の身体的な才能のなさを嘆いた時期がありました。
合気道は、運動神経が良くなければ上手くなれない。
身体が柔らかくなければできない。
そう思い込んでいたのです。
仕事や人生においても、
「自分にはあの人のような才能がない」
「専門的なスキルが足りない」
と、能力の壁に立ちすくんでしまうことがあります。
今日は、合気道における「思想」の重要性と、稲盛和夫氏が説く「経営哲学」という根本のあり方から、能力やスキルの不足を補って余りある、人生の土台の作り方についてお話しします。
スキルよりも大切な「根本の思想」
合気道において、身体の柔軟性や運動神経といった物理的な能力は、決して一番大切なものではありません。合気道の根本であり、最も重要なのは「争わず、思いやる」という思想です。
相手を力でねじ伏せるのではなく、相手と気を合わせる。
対立するのではなく、調和の世界を目指す。
愛の武道として、宇宙の真理と一体となる。
こうした根本の哲学が心と身体の奥底に根付いているからこそ、結果として無駄な力みが抜け、相手と一体化するような「しなやかで美しい動き」が生まれるのです。
表面的なテクニックや運動神経だけで技をかけようとしても、そこに「相手を思いやる哲学」がなければ、ただの力任せの暴力的な衝突になってしまい、決して合気道の技にはなりません。
合気道がこれほどまでに多くの方に愛される武道となっているのは、物理的な強さではなく、この「愛と調和の思想」があるからなのです。
稲盛和夫が語る「哲学」の絶対性
ビジネスの世界でも、私たちはつい「能力」や「スキル」ばかりを追い求めてしまいます。
MBAのような専門的な経営知識がなければいけない。
すぐれたプレゼン能力や、頭の回転の速さがなければいけない。
そうしてノウハウの習得に必死になります。
しかし、稲盛和夫氏は、著書『京セラフィロソフィ』の中で、事業を成し遂げるために本当に必要なものについてこう語っています。
「京セラフィロソフィ」の項目一つ一つは、まさに私の経営哲学のエッセンスです。専門的な経営学に精通し、経営者もすばらしい能力を持っていなければ事業はできないと言われていますが、私は経営の根本となるべき「経営哲学」が一番大事であり、それさえしっかりとしていれば経営はうまくいくと密かに思っていました。
(稲盛和夫『京セラフィロソフィ』より)
稲盛氏は、専門的な知識や素晴らしい能力よりも、根本となるべき「哲学」が一番大事だと断言しています。
人間として何が正しいのか。
誰のために、何のために仕事をするのか。
そうした揺るぎない哲学さえしっかりと持っていれば、多少の能力不足やスキルの欠如は、後からいくらでもカバーできる。
逆に言えば、どれほど優秀な能力を持っていても、根本の哲学が間違っていれば、やがて必ず行き詰まるということです。
才能のなさを嘆く前に、哲学を深める
私たちは、自分の思い通りに物事が進まないと、すぐに「才能がない」「スキルが足りない」と能力のせいにして諦めそうになります。しかし、本当に見直すべきは能力ではなく、自分の中にある「哲学」なのかもしれません。
相手を論破して自分の意見を通そうとするから、反発にあって苦しくなる。
自分一人の手柄を立てようとするから、周囲の協力が得られず孤立する。
そこに必要なのは、新しいスキルの習得ではなく、「他者と争わず、調和し、思いやる」という合気道的な思想を、自分の仕事の哲学として根付かせることです。
運動神経がなくても、身体が硬くても、正しい思想を持てば美しい技は生まれます。
能力の壁にぶつかった時こそ、小手先の技術に頼るのではなく、自分の生き方の根本にある哲学を磨き上げるチャンスなのです。
今日の稽古
自分の能力不足やスキルのなさに直面して自信を失いそうになった時、自分にこう問いかける。
「テクニックに頼ろうとしていないか。根本の哲学を忘れていないか」
今日も私は、表面的なスキルだけを追い求めず、他者と調和し、思いやるという「哲学」を深める稽古を実践していく。
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■ この記事を書くにあたって読み返した本
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価格:2640円 |

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