「動画でノウハウを学び、やり方は理解したのに、いざ実践するとうまくいかない」
「頭では分かっているのに、実際の仕事では成果に繋げられない」
ビジネスの現場や新しいスキルの習得において、私たちはこうした「分かっているのにできない」というもどかしさの壁にぶつかることがあります。
情報が溢れる現代だからこそ、私たちはつい効率よく知識だけを吸収し、それだけで「できたつもり」になってしまいがちです。
しかし、本当に価値のある実力を身につけるためには、一体何が足りないのでしょうか。
今回は、稲盛和夫氏が説く「理論と経験則を噛み合わせる重要性」と、合気道で直面する「頭で理解しても身体が動かない現実」から、本物の成長を掴むための心のあり方についてお話しします。
自分の手を染めて苦労して、はじめて分かる世界がある
稲盛和夫氏は、本当のものづくりや技術開発において、決して欠かすことのできない「経験」の重みについて、著書『京セラフィロソフィ』の中で次のように説いています。
企業での技術開発やものづくりには経験則が不可欠です。理論だけではものはできません。
たとえばセラミックの場合、原料である粉体を混ぜて成型し、高温で焼けばでき上がるということは、勉強さえすれば誰でも理解できます。ところが、粉体を混ぜるということがどういうことなのかは、実際に自分の手を染めて苦労してやってみた経験則でしかわからない世界です。
この経験則と理論がかみ合ってはじめて、すばらしい技術開発やものづくりができるのです。
(稲盛和夫『京セラフィロソフィ』より)
勉強さえすれば、仕組みや理論は誰でも理解することができます。
しかし稲盛氏は、「粉体をどこまで混ぜたら混ざったといえるのか」という現実的に肝心な部分は、実際に自分の手を動かし、試行錯誤して苦労を重ねた人間でなければ分からないと言います。
どれほど優れた理論であっても、それを支える地道な「経験則」という土台がなければ、素晴らしい価値を生み出すことはできない。
頭の中の知識と、五感で掴んだ実感をしっかりと噛み合わせることが、本物のプロフェッショナルの条件なのです。
頭で分かっただけでは、身体は1ミリも動かない
この「理論を頭で理解することと、実際にそれができることとのギャップ」を、私は合気道の稽古で毎回のように痛感しています。
最近では、合気道の動画もインターネットでたくさん見ることができます。
「なるほど、あそこでこのような捌きをすればいいのか」
「ここでふっと力を抜けば、相手をこのように崩せるのか」
と、画面を見ているうちは、頭の中で完全に納得して「合気道の技って意外と簡単だ」と思えることがあります。特に合気道をやったことがない人であれば、なおさらそう感じることも多いかもしれません。
さらに、道場で目の前の師範から直接手解きを受けるときもそうです。
自分が師範の「受け」をとりながら、「ここでこうやって、こうやるんだよ」と丁寧に優しく教えてもらうと、その理合いがすっきりと頭に入って理解できます。
ところが、いざ交代して自分が技をかける側になってみると、あれほど簡単に思えた技が、相手にかからないということが非常に多いのです。
また、気の使い方でも同様です。
初心の頃は特に、「相手と気を合わせる」「丹田を合わせて繋がる」ということを言葉で理解できたとしても、では「具体的に身体をどう使い、心をどのように働かせればいいのか」はさっぱり分かりません。
結局のところ、自分で技をかけて失敗したり、相手の受けをとりながら「うまくいくときと、いかないときの力のぶつかり合い」を一つ一つ身体で経験していくしかありません。
稽古で何度も身体感覚の学びを重ね、五感で掴み取った生々しい経験則があってはじめて、頭の中の理論が身体の動きと噛み合って、本物の「技」になっていくのです。
「分かったつもり」の慢心を捨て、地道にやってみる
ビジネスの現場や人間関係においても、この呼吸は全く同じではないでしょうか。
優れたビジネス書を読み、フレームワークやマーケティングの理論を学べば、一時的に自分が万能になったかのような錯覚すら覚えます。しかし、実際のマーケットや取引先との商談、部下との対話においては、教科書通りにいかないことばかりが起きます。
「どこまでやれば、相手の心に響くのか」という絶妙な匙加減は、現場でやってみて、苦労をしてみないと分からない経験則の世界です。
大切なのは、理論や知識を軽視することではなく、それだけで満足してしまう「分かったつもり」の慢心を手放すことです。
どれほど未熟で不格好であっても、実際に打席に立ち、失敗を重ねながら自分だけの経験則を蓄積していく。
その泥臭いプロセスの積み重ねが、本物の実力を生み出していくのです。
今日の稽古
知識だけで何かを「分かったつもり」になって満足していないか。
泥臭い経験を重ねることを面倒くさがって避けていないか。
理論を学習しただけで仕事ができたつもりになりそうな時、自分にこう語りかける。
「学んだら、すぐにやってみよう」と。
小手先の知識の満足を手放し、経験を取りにいく
今日も私は、理論と経験を兼ね備えた「本物の実力」を磨く稽古を続ける。
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